のふり
この3年間は、向こうにある空気を変えるため、自分の身体と格闘した期間だった。わたしの身体から発生するイメージについて、わたしの身体に貼られるラベルについて。
合格発表はもともとHPで確認するつもりだったので影響はなかったが、入学式がなくなり、講義開始が延期され、1年前期の授業は全てオンラインで行うことが決定した。上京を半年遅らせた。先生方はものすごく気を遣ってくださって、授業内で他の受講生と話す時間が設けられることも多かったし、サークルのオンライン対応もとても早かった。パソコンに向かうと、私はいつも肩から上だけの存在になった。
夏に上京した。存在しなかったはずの肩から下は、私の知らないところで補われていたらしい。「思ったより小さいね」とか、「イメージ通り」とか、いろいろ。念願の一人暮らしだった。服装について小言を言われることもない。思いつくことは大体やってみた。髪を切って、体のラインを隠す服を身につけた。体を潰したり出っぱらせたりしてみたこともある。私はボーイッシュな女性になった。街では「お姉さん!」と声をかけられていたし、女子トイレを使って叫ばれることもなかったし、重い荷物を持っていると「代わるよ」と荷物を半ば奪われていたので、多分そうだと思う。気のおけない友人たちに、実は、といわゆるカミングアウトをしたこともあった。ジェンダーアイデンティティなんて私の一部の属性でしかないのに、それが誤解されている気がするとそこばかり気になってしまう。シスジェンダーとしては生きられなかったんだろうと思う。